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エレベーターロープ用グリース、エレベーターロープおよびトラクション式エレベーター

申请号 JP2015240963 申请日 2015-12-10 公开(公告)号 JP2017105932A 公开(公告)日 2017-06-15
申请人 株式会社日立製作所; 发明人 布重 純; 太田 亮; 大部 芳樹; 中山 真人; 安部 貴;
摘要 【課題】 高いトラクション特性と高い耐摩耗性を両立し、更にロープ表面への密着性を有するエレベーターロープ用グリースと、該エレベーターロープ用グリースを用いたエレベーターロープおよびトラクション式エレベーターを提供する。 【解決手段】 本発明に係るエレベーターロープ用グリースは、ワイヤーロープと、前記ワイヤーロープの表面に形成されたグリース層と、を有するエレベーターロープの前記グリース層を構成するエレベーターロープ用グリースにおいて、炭化 水 素成分及びナフテン化合物を含む基油を含むグリースからなり、前記炭化水素成分は、40℃での動 粘度 が60mm 2 /sより大きい液体または固体であり、前記グリースの30〜90質量%含まれることを特徴とする。 【選択図】なし
权利要求

ワイヤーロープと、前記ワイヤーロープの表面に形成されたグリース層と、を有するエレベーターロープの前記グリース層を構成するエレベーターロープ用グリースにおいて、 炭化素成分及びナフテン化合物を含む基油を含むグリースからなり、 前記炭化水素成分は、40℃での動粘度が60mm2/sより大きい液体または固体であり、前記グリースの30〜90質量%含まれることを特徴とするエレベーターロープ用グリース。前記炭化水素成分がポリブテンまたはポリイソブテンであることを特徴とする請求項1記載のエレベーターロープ用グリース。前記ナフテン化合物が下記一般式(1)で表される少なくとも1種のアダマンタン誘導体を基本骨格とする化合物を含むことを特徴とする請求項1記載のエレベーターロープ用グリース。 (一般式(1)中、nは0〜10の整数を表す。R10は炭素数1〜3のアルキル基、カルボキシル基、アセチル基、アミノ基、ヒドロキシル基またはアルキルヒドロキシル基を表す。)前記ナフテン化合物が下記一般式(2)で表される少なくとも1種の多環ナフテン化合物を含むことを特徴とする請求項1記載のエレベーターロープ用グリース。 (一般式(2)中、nは0〜4の整数を表す。X、X´、X´´は単環または架橋構造を有する環状炭化水素、RおよびR´は直接結合または炭素数が1〜3のアルキレン基、Qは水素原子、炭素数1〜3のアルキレン基または環状炭化水素を表す。X、X´、X´´、R、R´およびQは、側鎖に炭素数1〜3のアルキル基または環状炭化水素を有していても良く、それぞれ互いに独立して構造が選択される。)前記一般式(2)で表される多環ナフテン化合物が、下記一般式(3)〜(8)で表される多環ナフテン化合物であることを特徴とする請求項4記載のエレベーターロープ用グリース。 (一般式(4)〜(6)および(7)のR1〜R7は一般式(9)〜(11)で表される炭化水素基からなり、一般式(9)〜(11)のR1´〜R12´は、それぞれ互いに独立して、水素、炭素数1〜3のアルキル基、単環シクロヘキシル基または架橋構造を有するシクロヘキシル基から選択される。一般式(3)〜(8)のn1〜n15は環状炭化水素の構造に応じて0〜9または0〜11の整数を表し、Q1〜Q15は、それぞれ互いに独立して、炭素数1〜3のアルキル基、単環シクロヘキシル基または架橋構造を有するシクロヘキシル基から選択され、n1〜n15が2以上の整数である場合において、複数のQ1〜Q15は、それぞれ互いに独立して構造が選択される。一般式(5)および(6)のQ1´〜Q3´は、それぞれ互いに独立して、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、単環シクロヘキシル基または架橋構造を有するシクロヘキシル基から選択される。)さらに、増ちょう剤を含み、前記増ちょう剤は、鉱油系炭化水素ワックスまたは合成炭化水素ワックスであり、グリースの0.5〜25質量%含むことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載のエレベーターロープ用グリース。前記増ちょう剤が下記一般式(12)〜(13)で表される少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項6記載のエレベーター用ロープ用グリース。 (一般式(12)のR1´´は水素または炭素数1〜24のアルキル基であり、一般式(13)のR3´´は炭素数1〜8の炭化水素基であり、一般式(12)のR2´´、一般式(13)のR4´´およびR5´´は、それぞれ互いに独立して、炭素数4〜24の炭化水素基から選択される。R1´´〜R5´´は、側鎖にアルキル基、ヒドロキシル基またはフェニル基等の置換基を有していてもよい。)さらに、増粘剤を含み、前記増粘剤が重量平均分子量1,000〜100,000の直鎖炭化水素、分岐炭化水素、飽和環状炭化水素及び芳香族炭化水素のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載のエレベーターロープ用グリース。ワイヤーロープと、前記ワイヤーロープの表面に形成されたグリース層と、を有するエレベーターロープにおいて、 前記ワイヤーロープは、心綱と、複数の鋼線からなり、前記心綱の周りに配置されたストランドと、を有し、 前記グリース層が、請求項1ないし5のいずれか1項に記載のエレベーターロープ用グリースからなることを特徴とするエレベーターロープ。ロープと、前記ロープを巻上げるための巻上機と、前記ロープに接続されたカウンターウェイトと、前記ロープに接続され、前記ロープが巻上げられることにより駆動される乗りかごと、を備えたトラクション式エレベーターにおいて、 前記ロープが、ワイヤーロープと、前記ワイヤーロープの表面に形成されたグリース層と、を有し、 前記ワイヤーロープは、心綱と、複数の鋼線からなり、前記心綱の周りに配置されたストランドと、を有し、 前記グリース層が、請求項1ないし5のいずれか1項に記載のエレベーターロープ用グリースからなることを特徴とするトラクション式エレベーター。

说明书全文

本発明は、エレベーターロープ用グリース、エレベーターロープ及びトラクション式エレベーターに関する。

近年、中低層建造物向けのエレベーターについて、機械室レスのトラクション式エレベーターが用いられている。トラクション式エレベーターは、機械室レス化によってエレベーター搭の設計レイアウトの自由度が高められ、従来は設置が難しかった狭小スペースにも設置できる。そのため、装置の新設および更新の際に普及が進んでいる。

エレベーター用ロープ(以下、「エレベーターロープ」と称する。)は、例えばJIS G 3525で規定されたロープが一般的である。エレベーターロープは、合成繊維又は天然繊維からなる心綱の周りに、6本または8本程度のストランドを配置し、これらを撚った構造(ワイヤーロープ)である。また、ストランドは複数本の鋼線を撚り合わせたものである。ロープに張が加わると、鋼線ストランドが心綱を圧縮する方向に力が作用することにより生じる鋼線同士の擦れや摩耗の抑制及びロープ‐シーブ間の油膜形成(潤滑性保持)のために、ロープ表面には粘性を持った油もしくはグリース状の油が塗布されている。ロープとシーブの接触部における接触面圧(ヘルツ面圧)が高くなるようにロープの張力を上げると、ロープ表面の油は接触部で弾性流体潤滑膜を形成し、巻上機の動力は接触部を通じてロープに伝達される。これはトラクションドライブと呼ばれる駆動方式の1種で、ロープが動くことで乗りかごとカウンターウェイトが駆動し、エレベーターの昇降(乗りかごの昇降)が起こる。

最近ではロープ径の小さいロープの適用が検討されている。ロープが細径化することで、シーブの直径および巻付き度が小さくなり、エレベーターの一層の小型化が可能となる。一方で、ロープの細径化は、ロープ‐シーブ間の接触面積が小さくなり、ロープの動力伝達(トラクション)低下につながる。トラクションによって生じたロープの駆動力(トラクション力)は、ロープとシーブの接触面圧と油(油膜)のトラクション係数の積で表される。接触面積の狭小化に対しトラクション力を得るには、ロープ‐シーブ接触部の接触面圧を高めるか、トラクション係数の高い油への変更が必要となる。また、接触面圧を高めることで、ロープとシーブとの接触による摩耗の増加も懸念される。

ここで、ロープ細線化によって、接触部の接触面圧は上昇する一方、ロープの引張り強さは低下する。接触面圧は乗りかご等を重くすることで増加するが、ロープへの負荷も高くなることから、ロープの安全率を考慮して調整する必要がある。また、装置の小型化に加えて、省エネルギー化および長寿命化の観点から、乗りかご等の軽量化も検討されており、接触面圧を高める方法には技術的な制約が多い。そこで、エレベーターロープへ、接触面積の狭小化に対して優れたトラクションが得られるような油及びグリースなどの適用が求められている。

高トラクションロープを用いたトラクション式エレベーターの例としては、特許文献1に、ポリブテン及び液状ポリイソブテンの単独もしくは組合わせを基剤とし、これを増ちょう剤で固定させることにより必要滴点、ちょう度の軟固体状油剤もしくはグリース状油剤をロープに少なくとも塗油したことを特徴とするトラクション式エレベーター装置が開示されている。

また、特許文献2には、トラクションドライブ装置(回転剛体間の点接触や線接触により駆動力を伝達する装)に用いるトラクションドライブ流体であり、所定の分子構造を持つシクロペンタジエンのオリゴマーと40℃での粘度が5〜60センチストークス(mm2/s)のポリブテンとからなる、トラクションドライブ流体が開示されている。

特開昭58‐176298号公報

特開平5‐105890号公報

エレベーターの安全性の確保及びエレベーターの保守点検回数低減等のために、エレベーターロープには高いトラクション特性に加えて高い耐摩耗性を有することが望まれる。エレベーターロープの高い耐摩耗性を実現するためには、ロープ‐シーブ間に、ロープ‐シーブ間の油膜の保持(潤滑性保持)力の高いエレベーターロープ油又はグリースを設けることが考えられる。

特許文献1のグリースに含まれる液状ポリブテン及びポリイソブテンはトラクション特性に優れる(トラクション係数が高い)が、直鎖状炭化素のため高面圧下で分子の変形を受けやすく、油膜の厚みが薄くなりやすい特徴がある。これによってロープ‐シーブ間での油膜切れが起こりやすく、結果として接触表面で摩耗が進行しやすく、ロープ寿命が汎用の鉱油系グリースを用いた場合よりも短くなる恐れがある。また、ロープとシーブとの間の油膜が薄くなると、部品同士の直接接触に加え、摩耗により生じた摩耗粉の影響などにより、巻上機の動力がロープにうまく伝達されず、エレベーターの制動不良を引き起こす恐れもある。

特許文献2のトラクションドライブ流体は、所定の構成の流体とすることで、トラクション性能と低粘度、熱安定性などに優れた性能を示す特徴がある。装置の仕様上、流体の粘度は20〜25センチストークス(mm2/s)とすることが望ましく、できるだけ粘度を低くすることでトラクション性能を高めることが重要とされている。また、流体の分子量および粘度が高い条件では、トラクション係数の低下などが生じ、目的の性能を得ることができないことが示されている。当該トラクションドライブ流体をエレベーター用ロープに用いた場合、粘度が低いためグリースが一度軟化すると飛散などにより徐々にロープから油が失われ、摩耗およびエレベーターの制動不良を引き起こす恐れが高い。グリースに用いる流体(基油)においては、ロープ表面への油の保持性、および密着性が特に重要となるため、期待されるような性能を発揮できないと考えられる。

上述したように、従来の技術では、エレベーターロープに対して高いトラクション特性、高い耐摩耗性およびロープ表面への密着性を備えたエレベーターロープ用グリースと、それを用いたエレベーターロープおよびトラクション式エレベーターを提供することができず、更なる改善が望まれていた。

本発明の目的は、上記事情に鑑み、高いトラクション特性と高い耐摩耗性を両立し、更にロープ表面への密着性を有するエレベーターロープ用グリースと、該エレベーターロープ用グリースを用いたエレベーターロープおよびトラクション式エレベーターを提供することにある。

本発明は、上記目的を達成するため、ワイヤーロープと、該ワイヤーロープの表面に形成されたグリース層と、を有するエレベーターロープの上記グリース層を構成するエレベーターロープ用グリースにおいて、炭化水素成分及びナフテン化合物を含む基油を含むグリースからなり、前記炭化水素成分は、40℃での動粘度が60mm2/sより大きい液体または固体であり、前記グリースの30〜90質量%含まれることを特徴とするエレベーターロープ用グリースを提供する。

本発明によれば、高いトラクション特性と高い耐摩耗性を両立し、更にロープ表面への密着性を有するエレベーターロープ用グリースと、該エレベーターロープ用グリースを用いたエレベーターロープおよびトラクション式エレベーターを提供することができる。

上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。

本発明に係るトラクション式エレベーターの一例を示す模式図である。

本発明に係るエレベーターロープの一例を示す断面模式図である。

以下、本発明に係る実施形態について、図面を用いて説明する。

[エレベーターロープ用グリース] 上述したとおり、本発明に係るエレベーターロープ用グリース(以下、単に「グリース」とも称する。)は、炭化水素成分及びナフテン化合物を含む基油を含むグリースからなり、上記炭化水素成分は、40℃での動粘度が60mm2/sより大きい液体または固体であり、グリースの30〜90質量%含まれる。トラクション特性に優れる炭化水素成分と、グリースに耐摩耗性を付与するナフテン化合物とを含むことによって、高いトラクション特性および高い耐摩耗性を両立し、更にロープ表面への密着性が高いグリースを得ることができる。

なお、本明細書では基油単体または基油に増粘剤を添加して増粘した高粘度の油を「ロープ油」、基油および増ちょう剤を含み、せん断のない状態で固体状となる油を「グリース」と称する。以下、本発明に係るグリースの各構成について詳述する。

(1)基油 本発明において、基油は(A)炭化水素成分および(B)ナフテン化合物を構成要素とし、通常のエレベーター動作温度条件(40℃)において液状の油となる構成とする。上記特許文献2のトラクションドライブ装置用流体と異なり、エレベーターロープ用グリースでは、ロープ表面への密着性が重視される。

(A)成分としては、トラクション特性を維持できる範囲であれば特に限定は無いが、下記一般式(14)および(15)で表される、側鎖に炭化水素基を有する化合物が好ましい。

上記一般式(14)および(15)で表される具体的な化合物としては、ポリイソブテン、ポリブテン、ポリプロピレン、(ポリブテン(ポリ‐1‐ブテン)、ポリイソブテン)、ポリ‐1‐ペンテン、ポリ‐1‐ヘキセン、ポリ‐1‐ヘプテン、ポリ‐4‐メチル‐1‐ペンテン、ポリ‐1‐オクテン、ポリ‐1‐ノネンおよびポリ‐1‐デセンなどが好ましい。この中でも側鎖の分子鎖が短い方ものの方が好ましく、ポリブテンまたはポリイソブテンが特に好ましい。

上記(A)成分は、物質の状態(液体または固体)、分子量または粘度の異なるものを複数混合して用いることもできる。特に、エレベーターロープ表面への密着性および油膜切れ防止の観点から、使用されるポリブテンまたはポリイソブテンは動粘度(40℃)が60mm2/sより大きい液体または固体であることが望ましく、動粘度(40℃)が100mm2/s以上の液体または固体がより望ましい。基油の粘度は、(A)成分の種類や含有量によって調整することができる。

(B)成分としては、環状炭化水素を含むナフテン化合物のうち、アダマンタンを分子構造に含むアダマンタン誘導体および複数の環状炭化水素を分子構造に含む多環ナフテン化合物が好ましい。アダマンタン誘導体とは、アダマンタンを基本骨格として、更に少なくとも1つ以上の官能基を有する化合物である。具体的には、下記一般式(1)で表わされる少なくとも1種類の化合物である。

一般式(1)中、nは0〜10の整数を表す。R10は炭素数1〜3のアルキル基、カルボキシル基、アセチル基、アミノ基、ヒドロキシル基またはアルキルヒドロキシル基を表す。

一般式(1)で表される化合物は、アダマンタン構造を含む非常にかさ高い分子構造を有する(立体障害が大きい)化合物である。当該化合物はせん断抵抗が大きく、面圧が増加した場合でも分子構造の変形が抑制され、油膜の厚さを維持することができ、高い面圧に対して優れた耐摩耗性を実現することができる。

一般式(1)の好ましい例としては、具体的にはアダマンタン、メチルアダマンタン、1,3‐ジメチルアダマンタン、エチルアダマンタン、プロピルアダマンタン、イソプロピルアダマンタン、アダマンタンカルボン酸、アセチルアダマンタン、アミノアダマンタン、アダマンタノール、ヒドロキシメチルアダマンタン、ヒドロキシエチルアダマンタン、1,3‐アダマンタンジオール、1,3,5‐アダマンタントリオール、3,5‐ジメチル‐1‐アダマンタンメタノールおよび2‐エチル‐2‐アダマンタノール等が挙げられる。

また、多環ナフテン化合物とは、複数の環状炭化水素を分子構造中に有する一連の化合物を意味する。具体的には、下記一般式(2)で表わされる少なくとも1種類の化合物である。

一般式(2)中、nは0〜4の整数を表す。X、X´、X´´は単環または架橋構造を有する環状炭化水素、RおよびR´は直接結合または炭素数が1〜3のアルキレン基、Qは水素原子、炭素数1〜3のアルキレン基または環状炭化水素を表す。X、X´、X´´、R、R´、Qは側鎖に炭素数1〜3のアルキル基または環状炭化水素を有していても良く、それぞれ互いに独立して構造が選択される。

一般式(2)で表される化合物は、シクロヘキシル骨格などの環状炭化水素を複数有し、環同士が炭化水素もしくは直接結合することで非常にかさ高い分子構造を有する(立体障害が大きい)化合物である。したがって、上記一般式(1)の化合物と同様、当該化合物はせん断抵抗が大きく、面圧が増加した場合でも分子構造の変形が抑制され、油膜の厚さを維持することができ、高い面圧に対して優れた耐摩耗性を実現することができる。

一般式(2)で表される多環ナフテン化合物の例としては各種のものが挙げられるが、好適なものとしては以下の一般式(3)〜(8)で表される化合物が挙げられる。

一般式(4)〜(6)および(7)のR1〜R7は一般式(9)〜(11)で表される炭化水素基からなり、一般式(9)〜(11)のR1´〜R12´は、それぞれ互いに独立して、水素、炭素数1〜3のアルキル基、単環シクロヘキシル基または架橋構造を有するシクロヘキシル基から選択される。一般式(3)〜(8)のn1〜n15は環状炭化水素の構造に応じて0〜9または0〜11の整数を表し、Q1〜Q15は、それぞれ互いに独立して、炭素数1〜3のアルキル基、単環シクロヘキシル基または架橋構造を有するシクロヘキシル基から選択され、n1〜n15が2以上の整数である場合において、複数のQ1〜Q15はそれぞれ互いに独立して構造が選択される。一般式(5)および(6)のQ1´〜Q3´は、それぞれ互いに独立して、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、単環シクロヘキシル基または架橋構造を有するシクロヘキシル基から選択される。

一般式(3)〜(8)の化合物において、式中R1´〜R12´およびQ1〜Q15のアルキル基は、具体的には、メチル基、エチル基、n‐プロピル基およびi−プロピル基である。R1´〜R12´は、より好ましくは水素またはメチル基であり、特に好ましくはシクロヘキシル基に隣接する炭素原子がメチル化されているものである。一般式(3)〜(8)の化合物は、それぞれ単独で用いても良いし、任意の組合せおよび割合で混合したものを使用してもよい。

一般式(3)〜(8)の好ましい例としては、環状化合物を2〜4個含む化合物であり、具体的にはビシクロヘキシル、1,2‐ジシクロヘキシルプロパン、1,2‐ジシクロヘキシル‐2‐メチルプロパン、2,3‐ジシクロヘキシルブタン、2,3‐ジシクロヘキシル‐2‐メチルブタン、2,3‐ジシクロヘキシル‐2,3‐ジメチルブタン、1,3‐ジシクロヘキシルブタン、1,3‐ジシクロヘキシル‐3‐メチルブタン、2,4‐ジシクロヘキシルペンタン、2,4‐ジシクロヘキシル‐2‐メチルペンタン、2,4‐ジシクロヘキシル‐2,4‐ジメチルペンタン、1,3‐ジシクロヘキシル‐2‐メチルブタン、2,4‐ジシクロヘキシル‐2,3‐ジメチルブタン、2,4‐ジシクロヘキシル‐2,3‐ジメチルペンタン、2,4,6‐トリシクロヘキシル‐2,4‐ジメチルヘプタン、2,4,6‐トリシクロヘキシル‐2‐メチルヘキサン、2,4,6‐トリシクロヘキシル‐2,4,6‐トリメチルヘプタン、2,4,6,8‐テトラシクロヘキシル‐2,4,6,8‐テトラメチルノナン、ビシクロ[2.2.1]ヘプト‐2‐エン、2‐メチレンビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2‐メチルビシクロ[2.2.1]ヘプト‐2‐エン、2‐メチレン‐3‐メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン、3‐メチレン‐2‐メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,3‐ジメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト‐2‐エン、2‐メチレン‐7‐メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン、3‐メチレン‐7‐メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,7‐ジメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト‐2‐エン、2‐メチレン‐5‐メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン、3‐メチレン‐5‐メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,5‐ジメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト‐2‐エン、2‐メチレン‐6‐メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン、3‐メチレン‐6‐メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6‐ジメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト‐2‐エン、2‐メチレン‐1‐メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン、3‐メチレン‐1‐メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン、1,2‐ジメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト‐2‐エン、2‐メチレン‐4‐メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン、3‐メチレン‐4‐メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,4‐ジメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト‐2‐エン、2‐メチレン‐3,7‐ジメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン、3‐メチレン‐2,7‐ジメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,3,7‐トリメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト‐2‐エン、2‐メチレン‐3,6‐ジメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン、3‐メチレン‐2,6‐ジメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2‐メチレン‐3,3‐ジメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン、3‐メチレン‐2,2‐ジメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,3,6‐トリメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト‐2‐エン、2‐メチレン‐3‐エチルビシクロ[2.2.1]ヘプタンおよび3‐メチレン‐2‐エチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2‐メチル‐3‐エチルビシクロ[2.2.1]ヘプト‐2‐エン等が挙げられる。

一般式(3)〜(8)で示す化合物は、いずれも脂環式炭化水素を複数含む分子構造であり、環同士が直接結合もしくは炭化水素により架橋された構造を持つ。そのため、分子の立体障害が大きいため、高い圧力を受けても変形が起こりにくくなり、ロープ‐シーブ間の接触に対して十分な厚さの油膜を形成する。

一般式(3)〜(8)の化合物の製法は特に限定されず、公知もしくは任意の方法を採用することができる。例えば、α‐メチルスチレンやスチレンなどを2量化反応または3量化反応ののち、水素化により作製する方法や、ナフテン系合成潤滑油を製造する方法が挙げられる。また、製造の過程で生成する四量体化合物などを含んでいてもよいが、分子量の大きい多量体は固体として得られる場合があるため、二量体もしくは三量体化合物の方がより望ましい。

また、ナフテン化合物の別の例としては、単環あるいは二量体以上の環状モノテルペン類の水素添加物(水添物)及び単環あるいは二量体以上の環状モノテルペン類の誘導体(環状モノテルペン類誘導体)の水素添加物が挙げられる。環状モノテルペン類及び環状モノテルペン類誘導体(環状モノテルペノイド類)の例としては、各種のものが挙げられるが、好適なものとしてはメンタジエン類、架橋構造を持つ環状炭化水素類及びこれらの混合物を挙げることができる。これらはイソプレンを構成単位とする炭化水素であり、更に分子構造によっては構造異性体、鏡像異性体(d体、l体)を持つことが知られている。上記メンタジエン類及び架橋構造を持つ環状炭化水素類は、多量体合成の反応性が比較的高い。また、環状構造を多く有するため、立体障害の大きい基油を形成することができる。さらに、上記化合物は植物や昆虫、菌類等によって作り出される生体物質としても知られており、天然物由来の化合物のため、非石油系原料から製造可能である点で省資源の面で有利である。

メンタジエン類は、シクロヘキサン環の1,2位、1,3位又は1,4位にメチル基とイソプロピル基がそれぞれ置換された構造を持ち、さらに、炭素‐炭素二重結合を2つ有する化合物である。具体的には、リモネン、イソリモネン、α‐テルピネン、β‐テルピネン、γ‐テルピネン、テルピノレン、α‐フェランドレン、β‐フェランドレン及びこれらの鏡像異性体が挙げられる。また、アルキル基やヒドロキシル基等の置換基を導入した誘導体も同様に挙げられる。

架橋構造を持つ環状炭化水素類は、α‐ピネン、β‐ピネン、カンフェン、ボルニレン、フェンチェン、サビネン及びこれらの鏡像異性体が挙げられる。また、アルキル基やヒドロキシル基等の置換基を導入した誘導体についても同様に挙げられる。

また、上記に示した環状モノテルペン類及びその誘導体を含む混合物についても、同様に基油として用いることができる。具体的には、p‐メンタジエン類の異性体混合物であるジペンテン、α‐ピネンとβ‐ピネンの混合物であるテレビン油等の精油が挙げられる。

本発明における単環の環状モノテルペン類及びその誘導体とは、例えば上記に挙げたメンタジエン類およびこれらに類するものを水素化反応して得られる化合物が挙げられる。化学的安定性の観点から、不飽和炭化水素を含まないものが好ましく、より好ましい例としては、例えばノルボルナンおよびその誘導体、フェンカンおよびその誘導体、ピナンおよびその誘導体などが挙げられる。

本発明における二量体以上の環状モノテルペン類及びその誘導体とは、環状モノテルペン類又は環状モノテルペノイド類を多量化反応して得られる化合物(多量体)であり、一種類の多量体でもよく、複数種の多量体を含む混合物(例えば、リモネンの多量体とα‐テルピネンの多量体を含む混合物)であっても良い。また、異なる種類の環状モノテルペン類及び環状モノテルペノイド類からなる多量体としても良い。例えば、α‐ピネン(環状モノテルペン類)とβ‐ピネン(環状モノテルペン類)を多量化したものや、リモネン(環状モノテルペン類)とその誘導体(環状モノテルぺノイド類)を多量化したものであってもよい。

また、多量体は二量体以上であれば特に制限はなく、ユニット数(多量体を構成する単量体の数)の異なる多量体を含む混合物(例えば、二量体と三量体の混合物)であっても良いが、分子量の大きい多量体は固体として得られる場合がある。固体として得られた場合、溶剤に溶かす等して粘度を調整すれば使用できるが、その場合は基油が薄まり、トラクション特性が低下する可能性がある。そのため、二量体もしくは三量体化合物がより望ましい。なお、多量体のユニット数は、多量化反応の前の単量体の二重結合の位置に依存する。

上述した環状モノテルペン類又はその誘導体に対して、触媒存在下で多量化反応を行い、多量体を得る。多量化反応に用いる触媒は特に制限はないが、一般には酸性触媒を用いる。具体的には塩酸、硫酸、p‐トルエンスルホン酸、塩化アルミニウム、塩化鉄(II)、塩化スズ(II)、ゼオライト、シリカ、アルミナ、陽イオン交換樹脂及びヘテロポリ酸等である。反応容器に、環状モノテルペン類又はその誘導体と、上記触媒を投入して多量化反応を行う。また、触媒を分散させる目的で、n‐ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン又は1,2‐ジエトキシエタン等の溶媒を用いても良い。また、必要に応じてエステル類、ケトン類又はグリコール類等の反応調整剤を加えても良い。

次に、上記により得た二量体以上の環状モノテルペン類又はその誘導体について、水素添加反応を行い、二量体以上の環状モノテルペン類の水素添加物又は二量体以上の環状モノテルペン類誘導体の水素添加物を得て目的とする基油とする。水素添加反応は、一般的な方法により行うことができる。例えば、水素添加反応に適した金属触媒(ニッケル、ルテニウム、パラジウム、白金、ロジウム又はイリジウム等)の存在下で水素ガスを流通し、加熱することで水素添加反応(接触水素化)を行うことができる。

また、分子構造によっては水素化アルミニウムリチウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化トリエチルホウ素リチウム又は水素化ホウ素リチウム等のアート型のヒドリド錯体を用いたヒドリド還元を用いて水素添加反応を行うこともできる。通常は、金属触媒を用いた不均一系接触水素化によって行われるが、出発物質の二重結合の位置によってはこの方法では還元しにくく、ヒドリド還元(均一系水素化)の方が反応しやすい場合もあるので、水素添加反応は、各化合物の分子構造によって適した方法を選定することが好ましい。

上述した(B)成分は、環状炭化水素を複数有し、環同士が炭化水素を介して、もしくは直接結合することで非常にかさ高い分子構造を有する(立体障害が大きい)化合物である。当該化合物を含む基油とすることで、高い耐摩耗性を付与したエレベーターロープ向けグリースを得ることができる。

また、上述したアダマンタン誘導体および多環ナフテン化合物の他に、単環の脂肪族環状炭化水素を用いることができる。前述の化合物と比較して立体障害が小さくなるものの、同様の理由により基油の耐摩耗性を高めることが可能となる。

また、本発明に係る基油は、増ちょう剤との相溶性、基油の粘度およびロープグリース安定性、トラクションの調整などを目的として、鉱油(パラフィン油、ナフテン油)、合成エステル油、合成エーテル油および合成炭化水素油などを適宜配合した混合油、もしくはこれらを基油として(A)成分および(B)成分に加えて用いてもよい。これらは、エレベーターの設計仕様に応じて選定することができる。

また、ポリブテンまたはポリイソブテンとナフテン化合物との複合化物(混合油)を用いたときの耐摩耗性は、少量のナフテン化合物の複合化においても効果を発揮することが明らかとなった。後述する実施例に示す通り、基油の耐摩耗性を比較すると、ナフテン化合物が少なくとも1質量%以上の複合化物とすることで、基油の耐摩耗性が30%以上低減可能となる。

上記効果について、以下に考察を示す。高面圧下での油膜形成時、ナフテン化合物の一部が析出(固化)し、付近のポリブテンまたはポリイソブテンを巻き込みながら強制的に圧縮・固化してドメイン(島層)を形成することで油膜中に擬似的な相分離構造(海島構造)を形成する。グリース(または混合油)中に、このナフテン油を核とするドメインを形成させることで、ドメインがかさ高いクッションの役目を果たし、これにより少量のナフテン化合物でも金属同士の直接接触を抑制する効果を示したと推定される。

上述したナフテン化合物を少量添加することによって耐摩耗性が飛躍的に向上する効果は、高面圧下における油膜中での特殊な相変化によるものであり、従来見出されていなかった新規な知見である。

基油の最適な配合比は、粘度、トラクション性能および耐摩耗性を考慮して適宜選定できるが、最適な添加量は、(A)成分がグリースの30〜90質量%、ナフテン化合物がグリースの1〜70質量%である。さらに、(A)成分および(B)成分以外の基油をグリースの0〜50質量%程度加えてもよい。

(2)増ちょう剤 本発明に係るグリースは、上記基油を固化するために増ちょう剤を添加したものであってもよい。増ちょう剤は、グリース中に混合できれば特に制限なく用いることができ、増ちょう剤の例としては、鉱油系ワックス(マイクロワックス(マイクロクリスタリンワックス)、パラフィンワックスおよびペトロラタム等)、合成炭化水素ワックス(石炭の分解ガスをフィッシャートロプッシュ法で合成したもの)、オレフィン誘導体のポリマーワックス(ポリエチレンワックス、α‐オレフインワックス)、脂肪酸誘導体のワックス(アマイドワックス、ケトンワックス)、鉱物系ワックス(モンタン酸ワックス)、動物系ワックス(密ロウ、鯨)および植物系ワックス(カルナウバロウ、ホロウ)等がある。これらのワックスの種類および添加量は、トラクション係数への影響、チキソトロピック性およびロープへの張り付き性を考慮して決定する必要がある。増ちょう剤の添加量は、グリースの0.5〜25質量%が好ましく、1〜10質量%がより好ましい。

また、前述のロープ油及びグリースには、トラクション係数を低下させない限り防錆、酸化防止、摩耗抑制等の機能を付与するため、各種添加剤を添加することができる。防錆剤の例としては、例えばスルホン酸化合物の金属塩やアミン類がある。酸化防止剤の例としては、例えば2,6‐ジ‐tert‐ブチル‐p‐クレゾール等のフェノール系酸化防止剤、アルキル化ジフェニルアミン等のアミン系酸化防止剤およびジアルキルジチオリン酸亜鉛等の有機硫黄系酸化防止剤がある。摩耗抑制剤の例としては、例えば微粒グラファイト、二硫化モリブテン、ジアルキルジチオりん酸亜鉛およびポリ四フッ化エチレン粉末等がある。また、グリースの相溶性調整剤および金属界面の油性剤として、陰イオン系界面活性剤(脂肪酸ナトリウムなど)、非イオン系界面活性剤(ソルビタン脂肪酸エステルなど)および両性イオン界面活性剤(アルキルアミノ脂肪酸塩など)を用いることもできる。

また、増ちょう剤として、チキソ性付与剤を添加することもできる。チキソ性付与剤は1つの分子中に親水基および疎水基を持つ化合物であり、油などに溶解すると、溶液中で水素結合により分子同士が構造を形成し、固体状の組成物を形成する特徴を持つ。せん断により容易に軟化するチキソトロピック性を有し、高粘度の液状組成物となる。また、せん断応力が除かれることで再び水素結合による構造を形成し、固体状の組成物となる。当該組成物のチキソトロピック性は、室温付近をはじめとした、エレベーター昇降路の取り得る温度条件下で見られ、ロープ表面への高密着化とロープ‐シーブ接触面での油膜安定化を両立するものである。

本発明のグリースは、多環ナフテン化合物を基油に添加することで、通常のパラフィンを含む鉱油やポリイソブテンなどの鎖状炭化水素のみを基油とした場合よりも、増ちょう剤の添加量が少量でも油が固化する傾向を示す。これは、多環ナフテン化合物はかさ高い分子骨格が立体障害となって、鉱油や鎖状炭化水素よりもチキソ性付与剤の相溶性が低くなり、水素結合による構造形成が起こりやすくなったと推定する。また、少量のチキソ性付与剤で固化することから、本発明のグリースは基油のトラクション特性を損なうことなく用いることができる。

チキソ性付与剤としては、基油に可溶であり、基油を固化するものであれば特に制限なく用いることができる。チキソ性付与剤の例として、脂肪酸アミド、脂肪酸ジアミド、脂肪酸トリアミド、脂肪酸テトラアミド、酸化ポリオレフィンおよび水素添加したひまし油等がある。これらのチキソ性付与剤の種類および添加量は、ロープ油のトラクション係数への影響及びロープへの張り付き性(付着性)を考慮して決定する必要がある。

上記チキソ性付与剤のうち、特に脂肪酸アミド、脂肪酸ジアミドは多環ナフテン化合物との適度な相溶性と水素結合による構造形成に優れており、より好適な例である。具体的には、下記一般式(12)および(13)で表わされる化合物である。

一般式(12)の式中R1´´は水素または炭素数1〜24のアルキル基であり、一般式(13)のR3´´は炭素数1〜8の炭化水素基であり、一般式(12)のR2´´、一般式(13)のR4´´およびR5´´は、それぞれ互いに独立して、炭素数4〜24の炭化水素基から選択される。R1´´〜R5´´は、基油との相溶性および水素結合による構造形成の促進などを目的として、これらの側鎖にアルキル基、ヒドロキシル基またはフェニル基等の置換基を有していてもよい。特に好ましくは、R2´´、R4´´およびR5´´の側鎖にヒドロキシル基を有するものである。一般式(12)および(13)の化合物は、単独で用いても良いし、任意の組合せおよび割合で混合したものを使用してもよい。

一般式(12)および(13)の好ましい例としては、モノアミンまたはジアミンと脂肪酸との反応生成物である。モノアミンとしてはメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、2‐ブチルアミン、2‐メチルプロピルアミン、tert‐ブチルアミン、ペンチルアミン、2‐ペンチルアミン、3‐ペンチルアミン、2‐メチルブチルアミン、3‐メチルブチルアミン、ネオペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ラウリルアミン、トリデシルアミン、ミリスチルアミン、ペンタデシルアミン、パルミチルアミン、マルガリルアミン、ステアリルアミン、ノナデシルアミン、アラキジルアミン、ヘンイコシルアミン、ベヘルアミン、トリコシルアミン、シクロヘキシルアミンおよびフェニルアミン等が挙げられる。

ジアミンとしては、エチレンジアミン、1,2‐プロパンジアミン、1,3‐プロパンジアミン、1,4‐ブタンジアミン、1,3‐ペンタンジアミン、1,5‐ペンタンジアミン、1,6‐ヘキサンジアミン、2‐メチル‐1,5‐ペンタンジアミン、1,7‐ヘプタンジアミン、1,8‐オクタンジアミン、ヘキサヒドロ‐o‐キシリレンジアミン、ヘキサヒドロ‐m‐キシリレンジアミン、ヘキサヒドロ‐p‐キシリレンジアミン、1,2‐フェニレンジアミン、1,3‐フェニレンジアミンおよび1,4‐フェニレンジアミン等が挙げられる。

脂肪酸の例としては、酪酸、吉草酸、ピバル酸、ヒドロアンゲニカ酸、イソ吉草酸、イソカプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデシル酸、アラキジン酸、ヘンイコシル酸、ベヘン酸、トリコシル酸、リグノセリン酸およびヒドロキシステアリン酸などが挙げられる。また、これらの異性体や、カルボン酸ハロゲン化物、カルボン酸無水物および活性エステルなどの誘導体も含まれる。

チキソ性付与剤の添加量は、グリースの0.5〜25質量%が好ましく、1〜10質量%がより好ましい。0.5質量%未満であると、基油を固化することができず、また25質量%より多いと、基油が薄まりトラクション特性が低下する。少量で油を固化しやすくなるために、エレベーターの設計面圧、トラクション係数への影響、グリース製造のしやすさなどを考慮して、添加量を選定することが望ましい。グリースの混和ちょう度および滴点は、ロープへの加工性および長期付着性を考慮して、不混和ちょう度が200〜400および滴点が30〜110℃とすることが望ましい。不混和ちょう度および滴点は、主にチキソ性付与剤の種類、添加量および相溶性などによって制御される。

本発明に係るグリースは、加熱により液化、冷却により固化する性質を持つ。グリースをロープに適用する方法としては、グリースを加熱溶融することで、心綱や鋼線ストランド、ロープに対して浸漬、塗布、吹き付けすることで行うことができる。また、ロープ作製時に、心綱と鋼線ストランドのより合わせ口(ボイス口)において、加熱溶融することでグリースをロープに含浸塗布できる。

また、グリースのチキソトロピック性を利用することで、例えば、昇降中のエレベーターロープやシーブ等、動作中の部品の表面に塊状のグリースが直接接触するような仕組みを加えることで、ロープやシーブの表面にグリースを直接転写することも可能となる。

(3)増粘剤 上述した本発明に係る基油は、高いトラクション特性と耐摩耗性、ロープ表面への密着性を有するが、必要に応じて、増粘剤を加えてより粘度の高い基油とすることができる。粘度が不足すると、接触部への油の張り付き(付着性)は弱くなり、シーブからの動力伝達時に油膜切れを起こしてロープの摩耗が発生しやすくなるため、基油の粘度を高めるような施策が必要となる。

ここで、(1)に示した通り、ポリブテンまたはポリイソブテンは、任意の分子量のものを選定または複数の油を複合化することで、粘度を任意に調整できる。また、ナフテン化合物及びその誘導体のうち、分子量の大きい多量体は粘性の高い液体もしくは固体として得られる場合がある。例えば、四量体以上のナフテン化合物は固体であることが多く、それ単体で基油として用いることが難しいものの、分子量の大きい多量体は基油への高い溶解性や高トラクション特性を有するため、二量体、三量体の化合物と混合することで、四量体以上の化合物が増粘剤の役割を果たし、基油成分のみで増粘剤の機能を兼ねることができる。また、例えば接触面圧の低い条件や、単体で十分な粘性を有する化合物を基油に用いる等、油膜切れが抑制可能な条件とすることで、増粘剤を用いることなくグリースを構成することも可能である。したがって、本発明において基油単体でも粘度を高めることができることから、増粘剤は必須の成分では無く、基油の成分や接触面圧等のエレベーターロープの作動条件に応じて、必要があれば用いることができる。

増粘剤は、重量平均分子量が500以上100,000以下であることが好ましい。このような増粘剤を加えることによって、粘性の低い基油でも接触部に対して十分な張り付き性を示し、エレベーターのように高い接触面圧を受けるロープ‐シーブ間の接触に対しても十分な油膜厚さを維持できる。これによって、トラクション特性と耐摩耗性に優れたグリースとなる。

一般に、分子量が大きい増粘剤ほど増粘効果は大きく、少量の添加で粘性が増加するが、高い接触面圧を受けると分子の主鎖が切れやすくなる。そのため、当該技術分野において分子量の大きい増粘剤はあまり用いられない。しかし、本実施形態における基油は立体障害が大きく、油膜も厚くなると考えられる。これにより、油膜が緩衝材となって増粘剤へのダメージが低減されるので、分子量を大きくすることができる。一方で、分子量の大きい増粘剤ほど溶解性が下がることから、増粘剤の望ましい重量平均分子量は1,000以上100,000以下であり、5,000以上50,000以下がより好ましく、8,000以上30,000以下がさらに好ましい。

増粘剤は、ノルマルパラフィン、ポリ‐α‐オレフィン等のイソパラフィン、シクロペンタジエン系石油樹脂等の多環ナフテン化合物、芳香族炭化水素又はこれらの共重合体等を用いることができる。重量平均分子量が1,000以上100,000以下で、基油に溶解もしくは分散するものあれば良い。特に、シクロペンタジエン等の多環ナフテン化合物やポリイソブテン等のイソパラフィンは、基油相当のトラクション特性を示すことから、より好ましい。

また、増粘剤の添加量は設計仕様などに応じて適宜調整できるが、グリースの1〜40質量%であることが好ましい。1質量%未満では増粘剤の効果を得ることができず、40質量%より多いと、基油に対して均一に溶解させることが困難になり、また基油の成分が薄まることから、グリースのトラクション特性が低下する恐れがある。また、ロープ油として用いる場合、増粘剤の添加量は基油の5〜60質量%であることが好ましい。5質量%未満では増粘剤の効果を得ることができず、60質量%より多いと、粘度が高くなり過ぎる恐れがある。増粘剤の分子量及び添加量を変えることで、ロープ油の粘度を任意に調整することができる。

[エレベーターロープ] 図2はエレベーターロープの一例を示す断面の模式図である。図2に示すように、エレベーターロープ20は、ワイヤーロープ40と、ワイヤーロープ40の表面に形成されたグリース層11を有する。ワイヤーロープ40は、複数の鋼線(10a,10b及び10c)をより合わせて構成される鋼線ストランド(以下、「ストランド」とも称する。)9を、合成繊維又は天然繊維からなる心綱8を中心に複数本より合わせてなる。図2では心綱8の周りに6本のストランド9を配置しているが、8本のストランド9を配置していてもよい。

上述した本発明に係るグリースをワイヤーロープ40の表面(図2では、ストランド9の表面11)に配することで、エレベーターのロープ‐シーブ間の接触に対して十分な油膜厚さと張り付き性を有し、トラクション特性及び耐摩耗性に優れたロープを得ることができる。本発明では、グリースを少なくともストランド9の表面に被覆すれば本発明の効果を得ることができるが、心綱8の表面又は内部にも本発明に係るロープ油またはグリースを含浸させることで、ロープ使用時にロープ油又はグリースが心綱8からストランド9表面へ逐次供給され、長期にわたりロープの性能(トラクション特性及び耐摩耗性)を維持することができる。またストランド9内部にもロープ油またはグリースを含浸させれば、更に多くのロープ油またはグリースを保持しておくことができるので、更に長期にわたりロープの性能を維持することができる。

また、心綱8にはロープ油を含浸させ、ストランド9にはロープ油よりも粘性の高いグリースを被覆または含浸させることで、流動性の高いロープ油を心綱8からストランド9へ効率的に供給することができ、一方外部装置と接触するストランド9には高い張り付き性を付与することができるので、心綱8とストランド9とでロープ油とグリースとを使い分けると良い。もちろん、心綱8の内部、表面、ストランド9の内部及び表面の全てにグリースを配してもよい。この場合は、全て同じグリースを用いることから、生産性の面で効率が良く有利である。

グリース層をワイヤーロープに形成する(グリースをワイヤーロープに塗布する)方法としては、グリースを加熱溶融し、ロープ油と同様に心綱8や鋼線ストランド9、ロープ4に対して浸漬、塗布、吹き付けすることで行うことができる。また、ロープ作製時に、心綱8と鋼線ストランド9のより合わせ口(ボイス口)において、グリースを加熱溶融することで、グリースをロープに含浸塗布できる。

ロープ油の粘性を鋭意検討した結果、40℃の動粘度で40mm2/s以上であることが望ましく、より望ましくは50〜1,000mm2/sである。ロープ油の粘性が高くなると、張り付き性が高まる一方で心綱8からストランド9へのロープ油の供給が起こりにくくなるため、ロープやエレベーターの仕様に合わせて適宜選定する。ロープ油をワイヤーロープに塗布する方法としては、グリースと同様に、心綱やワイヤーロープに対してロープ油を浸漬、塗布、吹き付けすることで行うことができる。また、エレベーターロープのメンテナンス油として、常温でもロープに直接給油することも可能である。

[トラクション式エレベーター] 図1は本発明に係るトラクション式エレベーターの一例を示す模式図である。1は乗りかご、2はカウンターウェイト(つり合いおもり)、3は巻上機(図示せず)に接続したシーブ、4はロープ(エレベーターロープ)、5a、5bはそれぞれ乗りかご、カウンターウェイトを吊持する吊り滑車、6は頂部に固定された滑車、7は昇降路である。ロープ4の一端は昇降路7の頂部に固定され、乗りかごの吊り滑車5a、頂部滑車6、シーブ3、頂部滑車6、カウンターウェイトの吊り滑車5bの順で引廻され、もう一端が昇降路の頂部で固定されている。ロープ4を介して、乗りかご1とカウンターウェイト2によって発生する張力の差と、ロープ4とシーブ3の間に生じる摩擦力とが釣り合っている。ロープ4の表面は、上述した本発明に係るグリースから構成されるグリース層を有する。

本発明に係るトラクション式エレベーターは、グリースのトラクション係数が高いため、従来のエレベーターと比較して装置の小型化及びロープ細線化が可能となる。また、エレベーターロープの耐摩耗性が高いため、ロープの交換回数を低減することができる。

加えて、本発明にかかるグリースを、チキソトロピック性を有するグリースとすることで、ロープやシーブなどのエレベーター部品の表面に対してグリースを連続的に供給することも可能となる。これは、グリースがせん断を受けて軟化する性質を利用したものであり、グリースをエレベーター部品の表面に直接転写することができる。グリースが適切なちょう度、混和ちょう度を有し、かつエレベーター部品と直接接触するような機構を含むものであれば、特に制限なく用いることができる。これにより、メンテナンス頻度や保守にかかる作業工程の削減、エレベーターロープ等の摩耗抑制、エレベーターの長寿命化が可能となる。当該機構の設置位置は特に制限は無く、エレベーターの設計仕様、易メンテナンス性などを考慮して用いることができる。

以下に、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。

(1)ロープ油およびグリースの評価方法 (1‐1)ロープ油の動粘度、ちょう度及び滴点の測定 ロープ油の動粘度(40,100℃)は、JIS規格(JIS K2283)に基づき測定した。また、グリースのちょう度(不混和ちょう度、混和ちょう度)及び滴点は、JIS規格(JIS K2220)に基づき測定した。また、ロープ油の40℃の動粘度の値から、ISO(International Organization for Standardization) 3448に基づき、粘度グレードを評価した。

(1‐2)トラクション係数測定 トラクション係数測定は、ボールオンディスク試験装置を用いて行った。本試験装置はボールおよびディスク双方が回転する機構を有し、すべり速度、転がり速度を任意に変更できる。測定条件は、荷重30N(ヘルツ面圧:0.82GPa)、転がり速度:500mm/s、温度30℃、すべり速度:0〜1000mm/sとし、すべり速度を変化させてトラクション係数を測定し、その最大値(μmax)を試料のトラクション係数とした。

回転体の材質にはJIS規格(JIS G 4805:2008)の高炭素クロム軸受鋼鋼材(SUJ2鋼材)を用いた。

(1‐3)ファレックス摩耗試験 油の極圧試験はファレックス摩擦摩耗試験装置を用い、ASTM−D2670を参考にして行った。試験片の材質は炭素鋼(ジャーナルピン(φ6.35mm):ニッケルクロム鋼鋼材(SAE3135)、Vブロック:硫黄快削鋼(AISI1137))であり、油で浸漬した試験片について、一定速度および荷重条件下(回転速度:290min−1、温度:70℃、ならし運転:89N, 5min、本測定:445N, 3h)で行った。摩耗量は負荷機構のラチェットの目盛り変化からピンとブロックの合計の摩耗深さを計算により求めた。

(1‐4)ゲルろ過クロマトグラフィ測定 増粘剤の重量平均分子量(Mw)は、ゲルろ過クロマトグラフィ(GPC:Gel Permeation Chromatography)装置(溶媒:テトラヒドロフラン、ポリスチレン標準)により測定した。

(2)基油の合成と評価結果 (2‐1)参考例1:合成油1〜3の合成 10リットル(以下、リットルを「L」と記す)のガラス製反応容器に、α‐メチルスチレン5kgと、触媒として12‐タングステン酸100gとを入れ、50℃で1時間加熱、攪拌して反応させた後、20℃の水浴にて冷却し、固体触媒を濾別した。この濾液を200Lオートクレーブに入れ、さらにシクロヘキサン100kgと、Pdを含む活性炭担体の水添触媒(5質量% Pd担持)(以下、この触媒を「Pd/C水添触媒」と表記する。)500gを入れ、密閉後、水素圧60kg/cm2(G)、180℃で8時間水素化を行い、室温まで放冷し、触媒を濾別した。

得られた生成物をゲルろ過クロマトグラフィにより分析したところ、二量体成分(2,4‐ジシクロヘキシル‐2‐メチルペンタン:合成油1)が48.2質量%、三量体成分(2,4,6‐トリシクロヘキシル‐2,4‐ジメチルヘプタン:合成油2)が32.3質量%、四量体成分(合成油3)が9.7質量%生成した。

全反応液をロータリーエバポレーターにかけて単量体(シクロヘキサン)および軽質分を留去し、次いで減圧蒸留により各成分を分取した。

(2‐2)参考例2:合成油4の合成 α‐メチルスチレン二量体1000g、シクロヘキサン5000g、Pd/C水素添加触媒10gを、攪拌機付き10Lオートクレーブに入れ密封した。オートクレーブ内を水素で0.1MPaに保ち、室温(25℃)で18時間攪拌した。その後、オートクレーブを開封し、Pd/C水素添加触媒を濾別後、シクロヘキサンを留去し、2‐メチル‐2,4‐ジフェニルペンタン1125gを得た。

次に、この2‐メチル‐2,4‐ジフェニルペンタン1000gと、AlCl3100gを塩化カルシウム管、冷却管および滴下漏斗を取り付けた10Lの三口反応容器に入れた。攪拌しながら、滴下漏斗よりジイソブチレン2000gを30分かけて滴下後、60℃まで昇温し、3時間攪拌した。反応容器を氷浴で冷却しながら、蒸留水3000gを30分かけて滴下し、AlCl3を分解した。その後、静置して有機層を分離し、無水Na2SO4による脱水を行うことにより、2‐メチル‐2,4‐ジフェニルペンタンのアルキル化体と、ジイソブチレンの多量体を含む混合物を3000g得た。

この反応液全量、シクロヘキサン30000g、N‐113ニッケル系水添触媒300gをオートクレーブに入れ、密封し、水素圧6.1MPa、200℃で2時間核水素化を行い、冷却後、触媒を濾別し、シクロヘキサンを留去した。反応液を減圧蒸留にて蒸留し、2mmHg、165〜180℃で留分1600g(2‐メチル‐2,4‐ジフェニルペンタンのアルキル化体の水添化合物:合成油4)を得た。

上記合成油4は、複数の物質が混ざったものであり、合成油4に含まれる主な物質は合成油A、合成油B、合成油C及び合成油Dである。合成油4において、合成油Aと合成油Bの含有量は合計で20質量%であり、合成油Cと合成油Dの含有量は合計で60質量%である。合成油A〜Dはそれぞれ下記の物質である。 合成油A: exo‐2‐メチル‐exo‐3‐メチル‐endo‐2‐〔(endo‐3‐メチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプト‐exo‐2‐イル)メチル〕ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン 合成油B: exo‐2‐メチル‐exo‐3‐メチル‐endo‐2‐〔(endo‐2‐メチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプト‐exo‐3‐イル)メチル〕ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン 合成油C: endo‐2‐メチル‐exo‐3‐メチル‐exo‐2‐〔(exo‐3‐メチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプト‐exo‐2‐イル)メチル〕ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン 合成油D: endo‐2‐メチル‐exo‐3‐メチル‐exo‐2‐〔(exo‐2‐メチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプト‐exo‐3‐イル)メチル〕ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン

(2‐3)参考例3:合成油5の合成 2Lのステンレス製オートクレーブに、クロトンアルデヒド561g及びジシクロペンタジエン352gを仕込み、170℃で3時間攪拌して反応させた。反応溶液を室温まで冷却した後、ラネーニッケル触媒18gを加え、水素圧9kg/cm2(G)、150℃で4時間水素化を行った。冷却後、触媒を濾別した後、濾液を減圧蒸留し、105℃/20mmHg留分500gを得た。

次に、γ‐アルミナ20gを入れ、反応温度285℃で脱水反応を行い、450gの生成物を得た。更に、1Lの四つ口フラスコに三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体8g、及び脱水反応生成物400gを入れ、攪拌しながら、20℃で4時間二量化反応を行った。この反応混合物を希NaOH水溶液と飽和食塩水で洗浄した後、1リットルオートクレーブに水素化用Ni/ケイソウ土触媒12gを加え、水素圧30kg/cm2(G),反応温度250℃,反応時間6時間で水素化反応を行った。反応終了後、濾過により触媒を除き、濾液を減圧で蒸留することにより、目的とする二量体水素化物200gの混合物(合成油5)を得た。

(2‐4)実施例1〜8のロープ油の作製と評価結果 基油としてポリイソブテン(ポリイソブテン油1:動粘度110mm2/s(40℃)、ポリイソブテン油2:動粘度655mm2/s(40℃)、ポリイソブテン油3:動粘度3,450mm2/s(40℃)、固体ポリイソブテン(重量平均分子量Mw:9,000))、およびナフテン化合物(合成油1〜5)の混合油を用い、増粘剤としてスチレンエラストマ(スチレン‐エチレン共重合体、スチレン共重合比:約70%、重量平均分子量Mw:80,000)をそれぞれ添加したロープ油を調製し、ISO粘度グレードおよびトラクション係数について評価した。表1にロープ油の組成および評価結果(諸物性の測定値)を示す。なお、表1の組成について、「%」は「質量%」を意味するものとする。後述する表2〜5についても同様とする。いずれも優れたトラクション係数を示し、かつ高い粘度を維持しており、ロープ油として優れた性能を示した。

(2‐5)比較例1の評価結果 実施例にて用いたロープ油との比較を目的として、ポリイソブテン油1:動粘度205mm2/s(40℃)のみ用い、ISO粘度グレード、トラクション係数および摩耗量について評価した。表2に評価結果を示す。

(2‐6)実施例9〜12のロープ油の作製と評価結果 実施例1に挙げたロープ油をベースとして、合成油1の添加量を変えて調製したロープ油を作製し、ISO粘度グレード、トラクション係数および摩耗量について評価した。表2にロープ油の組成および評価結果を示す。いずれも、ISO粘度グレード(ISO 3448)におけるVG100となるようにそれぞれの成分の添加量を調整し、粘度による影響が生じないように調整した。

いずれのロープ油についてもトラクション係数は高い値を示したが、ファレックス摩耗試験結果より、ナフテン化合物を含まないロープ油(比較例1)と比較して、ナフテン化合物を少なくとも1%以上含むロープ油では、摩耗量が30%以上抑制される傾向を示した。比較例1のポリイソブテン油は粘性を有するにも関わらず、面圧の高い条件では油膜が切れやすく、摩耗量が大きくなったと推定する。一方で、ナフテン化合物を混合したロープ油では、高面圧下での油膜形成時、ナフテン化合物の増粘または固化により、油膜中で擬似的な相分離構造を形成し、これにより金属同士の直接接触を抑制する効果を示したと推定する。以上の結果より、実施例に示す基油を用いたロープ油は、高トラクションと耐摩耗性に優れた性能を示すことがわかる。

(2‐6)実施例13〜16のロープ油の作製と評価結果 基油としてポリイソブテン油1、固体ポリイソブテン、およびアダマンタン誘導体(アダマンタン誘導体1:1,3‐ジメチルアダマンタン、アダマンタン誘導体2:アダマンタノール)、環状モノテルペン類(環状モノテルペン類1:ノルボルナン、環状モノテルペン類2:フェンカン)をそれぞれ添加したロープ油を作製した。いずれもISO粘度グレード(ISO 3448)におけるVG100となるようにそれぞれの成分の添加量を調整した。表3にロープ油の組成および評価結果を示す。

いずれのロープ油についてもトラクション係数は高い値を示し、ファレックス摩耗試験結果より、ナフテン化合物を含まないロープ油(比較例1)と比較して、摩耗量が低くなる傾向を示した。この結果より、ナフテン化合物としてアダマンタン誘導体および環状モノテルペン類を用いた場合であっても、耐摩耗性向上効果を示すことが明らかである。

(2‐7)参考例4:合成油6〜8の合成 10Lのガラス製反応容器に、D‐リモネン1kgと、1,2‐ジエトキシエタン100mlと、触媒として陽イオン交換樹脂100gとを入れ、50℃で6時間加熱、攪拌して反応させた後、20℃の水浴にて冷却し、固体触媒を濾別した。ロータリーエバポレーターにより、溶媒及び未反応の原料を回収し、反応液500gを1Lオートクレーブに入れ、水素化用ニッケル触媒50gを入れ、密閉後、水素圧50kg/cm2(G)、160℃で4時間水素化を行い、室温まで放冷し、触媒を濾別した。

得られた生成物をゲルろ過クロマトグラフィにより分析したところ、二量体成分(合成油6)が51.2%、三量体成分(合成油7)が35.3%、四量体成分(合成油8)が13.5%生成した。全反応液を減圧蒸留して各成分を分取した。

(2‐8)参考例5:合成油9の合成 10Lのガラス製反応容器に、β‐ピネン1kgと、シクロヘキサン200mLと、1,2‐ジエトキシエタン100mlと、触媒として陽イオン交換樹脂100gとを入れ、40℃で6時間加熱、攪拌して反応させた後、20℃の水浴にて冷却し、固体触媒を濾別した。ロータリーエバポレーターにより、溶媒および未反応の原料を回収し、反応液500gを1Lオートクレーブに入れ、水素化用ニッケル触媒50gを入れ、密閉後、水素圧50kg/cm2(G)、120℃で4時間水素化を行い、室温まで放冷し、触媒を濾別した。

得られた生成物をゲルろ過クロマトグラフィにより分析したところ、二量体成分(合成油9)が生成した。全反応液を減圧蒸留して二量体成分のみ分取した。

(2‐9)参考例6:合成油10の合成 10Lのガラス製反応容器に、カンフェン1kgと、シクロヘキサン200mLと、1,2‐ジエトキシエタン100mlと、触媒として陽イオン交換樹脂100gとを入れ、50℃で6時間加熱、攪拌して反応させた後、20℃の水浴にて冷却し、固体触媒を濾別した。ロータリーエバポレーターにより、溶媒および未反応の原料を回収し、反応液500gを1Lオートクレーブに入れ、水素化用ニッケル触媒50gを入れ、密閉後、水素圧50kg/cm2(G)、110℃で4時間水素化を行い、室温まで放冷し、触媒を濾別した。得られた生成物をゲルろ過クロマトグラフィにより分析したところ、二量体成分(合成油10)が生成した。全反応液を減圧蒸留して二量体成分のみ分取した。

(2‐10)参考例7:合成油11の合成 10Lのガラス製反応容器に、テルピノレン1kgと、シクロヘキサン200mLと、1,2‐ジエトキシエタン100mlと、触媒として陽イオン交換樹脂100gとを入れ、60℃で6時間加熱、攪拌して反応させた後、20℃の水浴にて冷却し、固体触媒を濾別した。ロータリーエバポレーターにより、溶媒および未反応の原料を回収し、反応液500gを1Lオートクレーブに入れ、水素化用ニッケル触媒50gを入れ、密閉後、水素圧50kg/cm2(G)、120℃で4時間水素化を行い、室温まで放冷し、触媒を濾別した。

得られた生成物をゲルろ過クロマトグラフィにより分析したところ、二量体成分(合成油11)が生成した。全反応液を減圧蒸留して二量体成分のみ分取した。

(2‐11)参考例8:合成油12の〜14合成 10Lのガラス製反応容器に、ジペンテン(p‐メンタジエン類の異性体混合物)1kgと、1,2‐ジエトキシエタン100mlと、触媒として陽イオン交換樹脂100gとを入れ、60℃で6時間加熱、攪拌して反応させた後、20℃の水浴にて冷却し、固体触媒を濾別した。ロータリーエバポレーターにより、溶媒および未反応の原料を回収し、反応液500gを1Lオートクレーブに入れ、水素化用ニッケル触媒50gを入れ、密閉後、水素圧50kg/cm2(G)、160℃で4時間水素化を行い、室温まで放冷し、触媒を濾別した。得られた生成物をゲルろ過クロマトグラフィにより分析したところ、二量体成分(合成油12)が66.3%、三量体成分(合成油13)が21.3%、四量体成分(合成油14)が12.4%生成した。全反応液を減圧蒸留して各成分を分取した。

(2‐12)参考例9:合成油15合成 10Lのガラス製反応容器に、テレビン油(α‐ピネン90%、β‐ピネン5%、その他5%)1kgと、シクロヘキサン200mLと、1,2‐ジエトキシエタン100mlと、触媒として陽イオン交換樹脂100gとを入れ、40℃で6時間加熱、攪拌して反応させた後、20℃の水浴にて冷却し、固体触媒を濾別した。ロータリーエバポレーターにより、溶媒および未反応の原料を回収し、反応液500gを1Lオートクレーブに入れ、水素化用ニッケル触媒50gを入れ、密閉後、水素圧50kg/cm2(G)、120℃で4時間水素化を行い、室温まで放冷し、触媒を濾別した。 得られた生成物をゲルろ過クロマトグラフィにより分析したところ、二量体成分(合成油15)が生成した。全反応液を減圧蒸留して二量体成分のみ分取した。

(2‐13)実施例17〜26のロープ油の作製と評価結果 実施例17〜26は、実施例1の合成油を他の多環ナフテン化合物(合成油6〜15)に変更したものである。表4に基油の組成および評価結果を示す。いずれも実施例1と同様、高いトラクション係数と耐摩耗性を示した。

(2‐14)参考例9:増ちょう剤の作製 3Lのガラス製反応容器に、m‐キシレン中にエチレンジアミン30gと、12−ヒドロキシステアリン酸300gとを溶解し、触媒として塩化鉄(III)6水和物15gを加えて10時間加熱還流した。生成物を濾別した後、再結晶により生成物を単離、精製した。

得られた生成物をゲルろ過クロマトグラフィにより分析したところ、脂肪酸ジアミド(N,N´‐エチレン‐ビス‐12‐ヒドロキシステアリン酸アミド)を得た。

(2‐15)実施例27〜33および比較例2のグリースの作製と評価 実施例1および7に示したロープ油の配合をベースとして、増ちょう剤(ワックス)を添加してグリースを作製した。パラフィンワックス(融点69℃)、マイクロワックス(融点88℃)、合成炭化水素ワックス(融点102℃)、ポリエチレンワックス(融点110℃)、脂肪酸ジアミド(融点143℃)、モンタン酸ワックス(融点100℃)について、ロープ油と共に所定量混合して調製した。また、比較例2として一般的なエレベーター用ワイヤーロープ用グリースである、赤ロープグリースを用いた。赤ロープグリースは、ワックスを主体とするグリースである。表5にグリースの組成および評価結果を示す。実施例27〜33のグリースは、いずれも優れたトラクション係数を示し、エレベーターロープ用グリースとして優れた性能を示した。

実施例27〜33に示すグリース調整方法は、他のロープ油からグリースを作製する際にも適用可能であり、特に脂肪酸ジアミドは添加量によって、混和ちょう度、不混和ちょう度が変化し、チキソトロピック性を制御可能である。そのため、ロープの要求性能に応じてチキソ性グリースのちょう度、チキソトロピック性、クリープ回復特性を柔軟に変えることが可能となる。加えて、本実施例に示したロープ油の粘度はVG100相当以上であり、高面圧下で液化した条件においてもロープ‐シーブ表面への密着性が高く、油膜切れ等の発生を十分に抑えることが可能となる。

また、上記実施例に示したロープ油又はグリースを配したロープは、高いトラクション特性と高い耐摩耗性を両立した性能を示すことから、特に、ロープの細線化に伴うトラクションの低下や、摩耗によるロープ寿命の低下に対して優れた性能を発揮する。

更に、ロープ油及びグリースのトラクション係数に影響を与えない範囲で添加剤を加えることで、防錆、酸化防止、摩耗抑制等の機能を付与することができ、装置の小型化、省メンテナンス化等の要求性能を満たすことが可能となる。

加えて、本発明にかかるグリースに脂肪酸ジアミドなどのチキソトロピック性を有する化合物を用いることで、ロープやシーブなどのエレベーター部品の表面に対してグリースを連続的に供給することも可能となる。グリースがエレベーター部品と直接接触するような機構を加えることで、エレベーターを使用したままロープなどの表面にグリースを供給することができる。また、グリースのチキソトロピック性を利用するため、従来のエレベーター用ロープグリースのような加熱などのプロセスは不要であり、簡便な装置により実現できる。これにより、メンテナンス頻度や保守にかかる作業工程の削減、エレベーターロープ等の摩耗抑制、エレベーターの長寿命化が可能となる。

以上説明したとおり、本発明によれば、ポリブテン等の炭化水素成分にナフテン化合物を添加(複合化)することにより、ロープ‐シーブ間の高面圧下においても油膜の変形を受けにくくなり、高いトラクション特性と高い耐摩耗性を両立するエレベーターロープ用グリースを提供可能であることが示された。加えて、基油の粘度を任意に調整することで油膜切れを生じることなくロープを使用することができ、従来のポリイソブテン油のみを基油とした場合と比較して摩耗による寿命低下を大幅に抑制することが可能となることが示された。

さらに、本発明に係るエレベーターロープ用グリースを用いることによって、高いトラクション特性と高い耐摩耗性を両立するエレベーターロープと、それを用いたトラクション式エレベーターを提供することができることが示された。

なお、上記した実施例は、本発明の理解を助けるために具体的に説明したものであり、本発明は、説明した全ての構成を備えることに限定されるものではない。例えば、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。さらに、各実施例の構成の一部について、削除・他の構成に置換・他の構成の追加をすることが可能である。また、連続使用などで成分構成や組成等が途中で変わった場合も、元の性能を維持する限りにおいては本発明の範囲に含む。

1…乗りかご、2…カウンターウェイト(つり合いおもり)、3…巻上機に接続したシーブ、4…ロープ(エレベーターロープ)、5a…乗りかごを吊持する吊り滑車、5b…カウンターウェイトを吊持する吊り滑車、6…頂部に固定された滑車、7…昇降路、8…心綱、9…ストランド、10a,10b,10c…鋼線、11…グリース(ストランド9の表面)、40…ワイヤーロープ、100…トラクション式エレベーター。